子どもにとっていい本とは、ときかれると簡単に「それは古い本です」と答えることがあります―と東京子ども図書館理事長で児童文学者の松岡享子先生が書いておられます。(「別冊太陽もっと読みたいおはなし絵本100」2005,12)
○もちろん「いい本」というその意味は絵本の゛古さ″ではなく゛命の長さ″ということなのですがそのことを同じく松岡先生は「゛古い本″には゛したたかな生命力″がある」とも書かれています。
今回は前作「日本の物語・お話絵本登場人物索引」に引き続いての戦後遡及版の収集・採録作業を行いましたが、古くは1950年代初めにまで遡れる戦後の絵本群を手にとりながら、ずっと読み継がれてきた絵本が数多くあることを改めて知りました。本当に長きにわたり、世代から世代の思いや願いのつながりがロングセラーを生み出してきたのでしょう。
○それらの絵本の中に大人が読んで思わず涙してしまうほどの貧しく厳しい時代の子どもの話がありました。二、三思い出すままに例を挙げれば「からすたろう」(八島太郎文・絵、偕成社)、「ひとりの正月」(斎藤隆介作、佼成出版社)、「おちよさん」(木村正子作;梅田俊作絵、あかね書房)などです。「ひとりの正月」では雪の中、峠を越えて村へ出た捨吉という名の11歳の少年が死んだ母を山道にうめ、奉公先の長者館では年とりの晩に大人の奉公人達に大黒舞を踊らされ、今日からはひとりで生きていかなければいけないという覚悟をするのです。
○これらの話は今はもうない過去の苦しい時代の話なのかもしれません。しかし、どんな豊かな時代であろうと忘れてはならない大切な心がまえや人間の生きる姿勢を教えてくれるものに違いないと感じました。
戦後の復興の中からこれまで長い間読みつがれてきた様々な絵本が子どもたちに届けられるよう、そのツールとしてこの登場人物索引が利用されることを願ってやみません。(2008年9月)